評論家・宮崎哲弥と映画監督・吉田大八が語る、映画『羊の木』

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2月3日(土)に公開され、全国で大ヒット上映中の錦戸亮主演の映画『羊の木』。山上たつひこ、いがらしみきおという2人の巨匠がタッグを組み、文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞した傑作コミックを『紙の月』『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督が映画化。ある港町にやってきた見知らぬ男女6人、彼らは全員「元殺人犯」という、衝撃と希望のヒューマン・サスペンスとなっている。

評論家・宮崎哲弥と映画監督・吉田大八が語る、映画『羊の木』

そんな本作の深いテーマ性に惹かれ「短い間に三度見たが、まだ見飽きない」と絶賛する評論家・宮崎哲弥と吉田大八監督によるトークイベントが、20日、109シネマズ二子玉川にて開催された。

評論家・宮崎哲弥と映画監督・吉田大八が語る、映画『羊の木』

まず今回のイベントをやるにあたり、映画についての感想を宮崎に聞いてみたかったと切り出す吉田監督。それに対して宮崎は、まっすぐと吉田監督の目を見ながら、「これはすごい映画だと思ったのは、淡々と進行していくかの様に見えて、ものすごく様々な作り込みがされている」と返した。近年の映画は映像に凝り、それをウリにしている作品も少なくないが、この作品は演出の妙でスッと観客の心の中に入り込ませていく部分があるという。

続けて、この作品を怪談の様だと語る宮崎。「これから何がおこるんだろう」という映像を積み重ねていくことにより、気付いたら引き込まれていく感覚が、怪談話と近いものがあるという。この宮崎の独自の視点に吉田監督は感心しつつも、「ヒューマンサスペンスと銘打ったんですけどね」と語り、笑いを誘った。

評論家・宮崎哲弥と映画監督・吉田大八が語る、映画『羊の木』

さらに話題は映画内の音楽について。学生時代にバンド活動をしていて、音楽に造詣が深い吉田監督は、作品の随所にそのこだわりを見せたそうだが、それが難解すぎて理解出来ないという声もあったそうだ。しかし、吉田監督と年齢が1つしか違わない同世代ということで感覚が近いのか、『羊の木』の音楽には心打たれたという宮崎。劇中歌について「俺にはビンビン伝わった」と語ると、吉田監督は嬉しそうな笑顔を見せていた。

評論家・宮崎哲弥と映画監督・吉田大八が語る、映画『羊の木』

そして吉田監督は、今回の映画について「あれはどういう意図なんですか?」などと、コメントを求められるのにとても困っていると語る。監督の中に全て答えがあるわけではなく、最近は「なにも答えは持っていない」と正直に答えるようにしているそうで、『羊の木』という、一見よく分からないタイトルがその象徴となっているようだ。

イベントの最後には、今作が昨年12月に虚血性心不全のため亡くなった俳優の深水三章(享年70歳)の遺作となったことに触れた2人。「素晴らしい俳優だった」と、思い出話に花を咲かせ、時代を彩った名俳優との別れを惜しんだ。

映画「羊の木」は全国大ヒット公開中。

映画「羊の木」

<STORY>
素性が知れないものたち、信じるか?疑うか?
さびれた港町・魚深(うおぶか)に移住してきた互いに見知らぬ6人の男女。市役所職員の月末(つきすえ)は、彼らの受け入れを命じられた。一見普通にみえる彼らは、何かがおかしい。やがて月末は驚愕の事実を知る。「彼らは全員、元殺人犯」。それは、受刑者を仮釈放させ過疎化が進む町で受け入れる、国家の極秘プロジェクトだった。ある日、港で発生した死亡事故をきっかけに、月末の同級生・文(あや)をも巻き込み、小さな町の日常の歯車は、少しずつ狂い始める・・・。

出演:錦戸亮 木村文乃 北村一輝 優香 市川実日子 水澤紳吾 田中泯/松田龍平
監督:吉田大八 『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』
脚本:香川まさひと
原作:「羊の木」(講談社イブニングKC刊) 山上たつひこ「がきデカ」、いがらしみきお「ぼのぼの」
© 2018『羊の木』製作委員会
©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社
配給:アスミック・エース
http://hitsujinoki-movie.com

 

取材・文:関口勇斗
写真:allnightnippon.com 編集部 岩永史弥

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