オードリーの「帰ってきた天沼パトロール

 
6.逡巡と婉曲

相馬たかしは、ひさびさに訪れたMr.Tの部屋を眺め、違和感を持った。
(おかしい、以前とどこか違う…)

もちろん、阿佐ヶ谷にある38階建て「MUTUMIビル」…の屋上に建っているビンボー臭い木造アパートである。
建物も、内装も、以前と変わらない。
変わっているのは、節電のためなのか、あるいはたんにケチなのか、
やけに薄暗い照明ぐらいだった(それが、ムードを演出するためのものであるとは、相馬は気がつきもしなかった)。
「どうして急に、連絡を?」
と相馬は訊ねる。
「いや、まあ…思う所があってね」
「思う所って?」
「だから、その…、私の心の中に、ふつふつと湧きあがってきた思いがあって、それがいわゆる思う所というわけで…」
「だから、そのふつふつってのは、なんだ?」
「ふつふつというのは……ぐつぐつとは違うわけで、と言って、ぐらぐらとも違う。
どちらかと言えば、わくわくという感情にも似た感じであって、それはつまり…」
「つまってねぇな」
「つまらないと言われれば、それはそうかもしれないが、しかし、私としてはどうしてもキミに伝えたいことがあって、
それが要するに、思う所というわけであって……」
話が、ちっとも前に進まない。
「なんか、奥歯にものがはさまったような言い方だな」
「そう、はさまっているのかもしれない」
「何が?」
「何がって言われても……、それは奥歯だから、当然奥の方にあるわけで、パッとこれがそうだとは言いにくいものだよ。
まあ、あえて言葉を変えていうならば、思う所がある、とでも言うか…」
堂々巡りである。
我慢してじっと聞いていた相馬たかしだが、ついに大声をあげた。
「だから、なんなんだよっ!?」
「しっ。…声が大きい」
Mr.Tは指を立て、周囲を見回した。
「誰かに聞かれたらどうする」
「聞かれたら困ることなのか?」
「別に、困りはしないが……恥ずかしい」
「恥ずかしい????」
Mr.Tは少女のように顔を赤らめ、じっと相馬たかしを見た。
そして突然、ガバッっと自分の上着を脱いだ。
「な、なにをするっ!?」

さあ、いよいよみなさんお待ちかねの展開か?
(ハラハラしながら続く)



藤井青銅情報コーナー!(勝手にコーナーとして独立)

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(預言が当たってほしくはなかったんだけどね…)

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