オードリーの「帰ってきた天沼パトロール

 
3.深夜の勧誘

東京・阿佐ヶ谷にある「MUTUMIビル」。
その38階の屋上ペントハウスに、伝説の音楽プロデューサー・Mr.Tの自宅兼オフィスがあった。
底辺は、その部屋を訪ねた。

「やあ、よく来たな」
ドアを開けたMr.Tは、にやりと笑った。
部屋に入ると、ほんのりとなにかの香りがする。底辺は、鼻をひくひくさせた。
(いい匂い。…なんだろう? サワデーでもないし、消臭力でもないし…)
彼にとって“いい匂い”とは、トイレの芳香剤の香りなのだ。
「これはアロマキャンドルだよ」
とMr.Tは言った。
見ると、テーブルの上で、短いキャンドルが揺れている。香りはそこから漂っているのだった。
「殺風景な男の独り暮らしだが、こうやると、それなりにムードも出るんでね」
とMr.Tは部屋の照明を消した。キャンドルのゆらゆらとした明かりだけが、
部屋の中を満たす。薄暗さのせいで、香りをより濃厚に感じる。
このアロマは『イランイラン』だった。それは『甘く官能的な気分にさせるアロマ』で、
古くから催淫効果があるといわれている……ということを、底辺は知らない。
さらに、インドネシアでは新婚のカップルが夜を過ごすベッドに
イランイランの花弁を敷きつめる風習がある……ということも、知らない。
いつの間にか底辺の背後に回り込んだMr.Tは、低い声で言った。
「キミに来てもらったのは、一緒にあることをしたいと思ってね」
「あることって?」
「それは…」
「それは?」
「…ちょっと待て。下が気になるな」
「下って?」
底辺は、自分の下半身を見た。
「気になるじゃないか。どんどん大きくなってきている」
「え…えぇっ?」
底辺は、なぜか顔を赤らめる。
「そうじゃない、バカ。このページの下だ。スクロールしてみろ。↓↓↓」
底辺はスクロールする(そして、今このページを見ているあなたもスクロールする)。
「な…なんだ。このページの下か……。ああ、この『アキバの…』とかいうやつ?」
「毎回、だんだんスペースが大きくなってる。ちょっと宣伝がすぎやしないか」
「まあ、そう言うなよ。いろいろ大人の事情ってものもあるんだろうし」
と底辺は、きわめて暖かくフォローする。
「…じゃ、まあ、それはいいだろう」
「ところで、僕と一緒にしたい、あることって?」
「これだ」
とMr.Tは一本のビンを見せた。
茶褐色のそのビンから、手の平に、中の液体をとろ〜りと垂らす。なにかのオイルのようだった。
にゅる・・・・・

(続く)


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