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3月20日 小原信治の草の根広告社
『停電したので、手書きしてみた。』
 
 停電した。
 今朝方、原稿を書いていたら、突然画面が一段階暗くなった。70年代までだったら何を言っているのかわからなかっただろう。パソコンで書いていたのだ。聴いていたネットラジオも、スタンドライトも消えていた。ほんの少し前にスイッチを入れたコーヒーメーカーも芳ばしい匂いを立て始めただけで仕事を中断していた。

 窓の外を見ると、信号も消えているようだ。この辺りでは唯一のネオンを放っているコンビニの明かりも消えている。

 すぐに復旧するかなと思い、時間潰しにスマホのツイッターで情報収集をしてみたけれど、原因や復旧のメドはもちろん停電の規模さえも分からない。長引いて充電が切れたら困るなと思い「停電」とツイートしただけでスリープさせた。
 
 停止してしまった冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してひと口飲んだ。喉を鳴らすゴクリという音が響き渡るくらい部屋が静かなことに気づいた。信号が停まっているせいか、時折り聞こえてくる自動車の走行音もしない。天気のわりには海も穏やかで波の音も聞こえない。まるで時間まで止まってしまっているみたいだった。

 瞑想でもしてみようかと思ったけれど、あいにくそんな暇もない。かといってバッテリーの残量で原稿の続きを書いているうちに充電が切れてしまっても困るだろうと思い、仕事を中断して、このBlogを書き始めた。

 何十年振りかの、原稿用紙に手書きだ。20歳で放送作家になったばかりの頃は手書きだった。ネタや企画書はA4のレポート用紙に。台本は「テレ原」と呼ばれる専用の原稿用紙に。ちょっと長い文章は400字詰めに。先輩に「放送作家はおもしろそうな字を書かなきゃダメだ」と教えられて、当時の女子高生が書いていた丸文字を真似ているうちに人から「へんなの」と言われる今の字になった。6・3・3の学校教育で習得した普通の字はどこかへ消えてしまった。

 とはいえ久々なのでやっぱりワープロで書いているようには筆が進まない。
ここまで書くのにいつもの倍以上かかっている。昔はこれで普通に書いていたのになあと溜め息をつく。電気のない不便さを改めて感じながら、同時に「便利なものだけが、こうした不便さを生む」ということも強く思った。

 電気、ガス、水道、車、パソコン、携帯電話、インターネット等々、みんな昔はなかった便利なものだ。でも、便利じゃなかった代わりにそれが当たり前の世の中ではさほど不便さも感じていなかったんじゃないだろうか。少なくとも携帯電話のない時代を知っている世代としては、携帯のなかった時代に不便さを感じたこともなかった。そりゃそうだろう、ないのが当たり前だったわけだし、「必要は発明の母」というくらいで、その不便さを強く感じていたら、僕自身が携帯電話を発明していたっておかしくないかもしれない(というのは言い過ぎだけど)。

 何があるか分からない時代だ。今当たり前にあるものが、いつ当たり前じゃなくなるか分からないことを僕らは3年前にも経験した。嫌というほど。
 
 もちろん便利なものを捨ててしまうのは不可能だけれど、たまには便利なものがなくなった時の不便さにも慣れておくことも必要かもしれないとこういうとき、改めて思う。あくまで命にかかわらない避難訓練的な備えとしてだけど。
便利なものがあるのが当たり前だからこそ、それを失っても生き伸びていけるサバイバル能力やそれがない不便さも楽しめる力を忘れずに持っておくことも必要なんじゃないかと、停電の静けさの中で改めて感じた。

 とここまで書いて、とても大事なことに気づいた。この原稿は電気を使ってインターネットに繋がらないと更新することができないのだ。

 THE END.

もはや手も足も出ないと、諦めて窓の外をみる。車も殆ど走ってない。小雨が降っている。静かな海だけが広がっている。昔はこんなに静かだったんだな、と100年前の人々の暮らしに思いを馳せた。
 
 と、そのタイミングで芳ばしい匂いが漂ってきた。コーヒーメーカーが仕事を始めたのだ。灯りがともり、聞こえないようで実は聞こえている「電気の音」が静かだった部屋に戻っていた。

 約1時間半、およそ1200世帯が停電していたそうだ。原因はなんと電柱に作られた「カラスの巣」。なんでも春先から初夏にかけて高いところに巣作りをするカラスは、素材に木の枝やどこからか拾ってきたハンガーなどの針金を使うのだそうで、それが電柱に作られると、針金が電線に触れ、停電の原因となってしまうのだという。
 カラスの巣ひとつで1200世帯の日常生活が中断させられてしまうなんて、僕らの文明はなんて脆いものなのかと、不謹慎にも笑ってしまった。

 そういえば、昨日、遠い北海道の海では殖えすぎたアザラシが漁業資源となっている魚を食べ荒らし、サケだけで4000万円の損害が出ているというニュースを見た。地元の漁業関係者たちはアザラシを駆除したいが、ゼニガタアザラシという絶滅危惧種に指定された生き物である為、これまで手が出せなかった。それが昨日の閣議で「絶滅危惧種からの解除」を視野に入れた再評価を2015年度末までに行うという方針が明らかになったのだそうだ。
「人間と絶滅危惧種とが同じ食料を巡って生存競争しなければならない、初めてのケースかもしれない」
 見識者のそんな言葉がとても印象的だった。

 僕らは他の生き物とともに一緒に生きているんだな、ということを改めて実感させられた停電だった。

 とりあえず僕は、手書きでもワープロと同じ早さで原稿が書ける自分を取り戻すことにしよう。

小原信治

投稿時間:2014-03-20 19:36:55
 
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