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「東京タワー〜ボクとラジオと、時々オカン〜 第一話・後篇」 |
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「暴力沙汰を起こして退学」というボクの単純な犯罪計画が、
担任教師の「お前ら、誰にも言うなよ!」という予想外の言葉によってあえなく失敗し、
ついにオカンに「学校行ってくれんね」と泣きつかれたボクは、
3年間、なんとか高校に通い続けた。
そして、少しでも親孝行したいという思いから、就職することを決めた。
だけど、そんな気持ちに反して、仕事にはさっぱり身が入らなかった。
今にして思えば、18歳のあの頃のボクは、
「働く」ということに対して、まだあまりにも子供だった。
「営業行ってきます」と言って会社を出たボクは、海岸に車を停めて、
毎日車の中で吉田照美さんと小俣雅子さんの「やる気MANMAN!」を聴いていた。
「おもしろかー…」
でも、これでいいんだろうか。このままでいいんだろうか。
毎日がそんな風に過ぎていき、「辞めたい」という思いは、日に日に強くなっていった。
「私は、
この度、一身上の都合により、8月31日をもって退職いたしたく…」
入社して数ヶ月。18歳のボクは、会社に退職願を提出し、帰宅した。
「かあちゃん、俺さ。会社辞めて、東京行くことにしたわ」。
ボクは、晩飯を作っているオカンの背中に向けてつぶやいた。
オカンのことだから、どうせ反対するだろうな。
しかし、そんなボクの予想を裏切り、オカンはボクにこう告げた。
「あ、そう。わかった。行ってくれば」。
えらい簡単にOKが出てしまった。おかしい。
数年後、ボクは思い切ってオカンに尋ねてみたことがある。
「かあちゃん、あのとき随分あっさり言うたね」と言うと、
オカンは何食わぬ顔でこう言った。
「私、知っとったもん。机の中、見とったけん。
あんた辞表とか書いてたの、私全部知っとるよ」
「…かあちゃん、あんた昔から、机の中見すぎ!
だいたい、昔俺の大事な洋モノのエロ本、あんた捨てたやろ!」
九州のオカンは、どうも息子の引き出しに干渉しすぎる癖がある。
さらにオカンは、ボクがまったく覚えていなかったことまで、
実にはっきりと覚えていた。
「あのときあんた、初めて私に『ありがとう』と言ったのよね」。
自分自身が昔言った言葉のはずなのに、オカンの口から聞くと、
なんだか別人が言ったみたいな、不思議な気持ちになった。
ボクが親父を亡くしたのは、たしか高2のときだった。
酒飲みで遊び人。やることといえば、マージャンばかり。
昭和40年代、工業大国を目指していた高度経済成長期の日本では、
安い賃金で精度の高い「部品」を作ることに力が注がれていた。
そんな「部品」の一つを作る会社の下請けの、下請けのような会社に勤めていた親父は、
日雇いで稼いだ金で、飲んで帰ってくる。
飲んだ勢いで、ケンカする。手癖も悪い。
当然、家には何の金も入ってこない。
そんな親父だった。
かあちゃんは、兄貴とボクを連れて、何度も家を出ようとした。
なんで親父を好きになったんだろう。
ボクはずっと疑問に思っていた。
でもかあちゃんは、今でも親父のことをこう表現する。
「あれでいて、やさしいところもあったとよ」と。
まともに勉強しなかった高校時代。
会社を辞めて、上京したいといった18歳の夏。
オカンはオカンなりのタフさで、親父を、そしてボクを、
受け入れてくれていたのかもしれない。
誰にも「ミュージシャンになる」と口にできないまま、東京に行く日がきた。
見送りに来てくれたのは、地元長崎の友達と、当時の彼女。
かあちゃんには、出発の時間も知らせなかったような気がする。
走り出すブルートレイン。
ボクは、これから自分を待ち受けるモノに思いを馳せていた。
これから、自分の人生が始まる。やっと、自由になれる。
ミュージシャンになれるかどうかなんて、その時のボクにとってはどうでもよかった。
とにかく、自由になりたかった。
小さな町を抜け出して、自分のことを誰も知らないような街へ、行きたかった。
「自由」の意味さえもはっきりとわからないまま、
ボクはただただ、「自由」を夢見て上京した。
「Midnight Blue Train 連れ去って
どこへでも行く
思いのまま
走り続けることが生きることだと
迷わずに答えて」
(浜田省吾・Midnight Blue Train)
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「寝台特急さくら」で東京に到着した福山少年は、
そのまま山手線に乗り換え、一路新宿へ…。
そこで福山少年が目にした、驚きの東京とは?
『福山雅治版 東京タワー〜ボクとラジオと時々オカン〜』
続きは来週の放送で!
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投稿時間:2007-03-14 20:07:40 |
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